日本における排出量取引制度の導入~「試行的実施」の評価~
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日本における排出量取引制度の導入

「試行的実施」の評価

諸富 徹
(京都大学大学院経済学研究科)

1.排出量取引制度とは何か
 排出量取引制度とは、温室効果ガスの排出総量のコントロールに優れ、それを少なくとも理論的には最小費用で達成できるという点で、大変望ましい性質を持つ政策手段である。その内容を簡潔に説明すると次のようになる。
 まず、政府が日本の排出削減目標を決定する。そうすると、排出してよい総量(キャップ)が決まるので、その下で、排出枠を各企業に無償か有償で配分する。各企業は、期末には実際の排出量と保有排出枠を一致させることが求められる。実際の排出量が保有排出枠を超える場合は、排出枠まで排出を削減するか、あるいは他企業から超過排出分に相当する排出枠を買ってこなければならない。逆に、排出削減を積極的に進めて排出枠が余った企業は、それを他企業に売却して収入を得たり、自分の事業拡張に使ったりできる。つまりこの制度は、排出削減を熱心に進める企業が報われる仕組みとなっている点に特徴がある。

2.排出量取引の「試行的実施」とは?
 「排出量取引の試行的実施」を謳った福田ビジョンを受け、日本政府は今年7月末に「低炭素社会づくり行動計画」を閣議決定した。それによれば、10月には試行的実施が始まる予定だが、その特徴は以下のようにまとめることができる。
 第1は参加の自主性である。企業に強制的に排出枠(キャップ)を割り当てるのではなく、排出量取引制度への参加自体が企業の自発性に委ねられる。第2は原単位(排出量/生産量)目標の許容である。原単位目標では、効率性を高めても生産量が増えれば排出量は増加してしまう。つまり、「試行的実施」は排出総量を削減することは狙っていないということがここから分かる。
 次に、福田ビジョンで「国内統合市場」と呼ばれた市場の姿がどのようなものになるのかという点についてだが、これは、単一の取引制度が立ち上げられるのではなく、京都メカニズムから発生するクレジット、国内CDMから発生するクレジット、?企業が自主宣言した原単位改善等の目標を超過達成して削減した分を第三者機関が認証したクレジット、?環境省が実施している自主参加型排出量取引制度において発生するクレジット、以上合計4種が取り扱われることになる。
 以上のうちは、自主行動計画に含まれない中小企業を対象としたものである。「国内CDM」の名からも明らかなように、基本的には京都メカニズムにおけるCDMの方法論を国内対策、しかも中小企業に適用しようというものである。?は、基本的には経団連自主行動計画をベースとしたものになる。自主行動計画上の目標以上に企業が排出削減を超過達成すれば、それをクレジットとして認めようという趣旨である。?は、参加企業が過去3年間の平均排出量を下回る水準に自主的に排出削減目標を設定し、それをキャップとする「キャップ・アンド・トレード型」の排出量取引制度である。
 以上より、合計4種類のクレジットをそれぞれ生み出す、異なる取引制度を統合したものを「統合市場」と呼んでいることがわかる。

2.試行的実施の問題点
 産業界からの強硬な反対を押し切って排出量取引の試行的実施を打ち出したという点では、たしかに福田ビジョンを評価できるものの、上述のように現実に想定される試行的実施の内容は、排出量取引のあるべき姿からみればきわめて問題が多い。
 第1に、試行的実施の内容は、「統合市場」といえば聞こえはよいが、既存の制度を寄せ集めてつなげただけの、臨時的、一時的な色彩の濃い制度である。本来ならば、統一的な制度としてキャップ・アンド・トレード型の排出量取引制度を立ち上げ、それを2013年から本格実施するために、2010年から3年間かけて試行的実施すべきであった。
 第2に、排出量取引の利点は、排出総量の管理を厳格に行えることだが、試行的実施では、これらの条件が満たされておらず、総量管理の点できわめて問題が多い。原単位目標を許容してしまえば、原単位改善が行われても生産量が増えれば排出は増加してしまう。
このように、今回の試行的実施は、確実な排出削減の実現という点では多くの問題をもち、またいくつかの異なる制度を組み合わせるために複雑性と行政コストが増すことになりそうである。とはいえ、取引制度に触れたこともない多くの企業に試行的実施を通じて取引制度に慣れ親しんでもらうことは意味があるだろう。また、政府側でも様々な制度インフラの確立とノウハウの蓄積が可能になる、という点では試行的実施にも意味がある。しかし、それも本格実施が前提とされて初めて意味を持つのであって、試行的実施のまま終わってしまうのであれば、この取り組みの存在意義自体が問われかねない。

3.本格実施へ向けての課題
 試行的実施から本格実施へいつ、どのように移行するのかは明らかにされていないものの、筆者は2009年末から10年にかけて、いずれ本格実施が政策論議の俎上に上らざるをえないと考えている。というのは、その頃に試行的実施の結果がそれなりに明らかになり、デンマークで開催される第15回京都議定書締約国会議(COP15)の結果、2013年以降の国際枠組みの姿が見えてくるからである。
 筆者が望ましいと考えている制度設計案はすでに別の箇所(諸富徹・鮎川ゆりか『脱炭素社会と排出量取引』日本評論社、2007年)で提示しているので、関心のある方はそちらをご参照頂きたいが、いずれにせよ、排出量取引制度は2013年以降の日本の気候変動政策の中核に据えるべき政策手段である。したがって、現在はあいまいになっている本格実施の導入とその年限について早期に政治的決定を行い、その下で具体的な制度設計に着手すべきであろう。


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