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【水道におけるクリプトスポリジウム対策】

橋本 温

阿南工業高等専門学校

クリプトスポリジウムとは

 1996年6月,埼玉県越生町で大規模な集団下痢症が発生した。患者数は8,700人を超え,町民の大多数が罹患し,後に町営水道に混入した病原性原虫クリプトスポリジウム(Cryptosporidium parvum)によるものと判明した。この原虫クリプトスポリジウムの水道を介した集団感染は1980?90年代の初頭に英国や米国で何度も発生していたが,わが国では1994年の平塚市で発生した,簡易専用水道の受水槽の汚染による感染事故に次いで,二例目となった。この越生町の集団感染は,水道の安全神話を震撼させ,水系感染症の減少に大きく貢献してきた「物理的な除去」と「塩素消毒」の2段構えによる水道の病原微生物対策を根本から再考する必要に迫られる大きな出来事であった。  クリプトスポリジウムは胞子虫類に属する原虫で,人をはじめとする様々な動物の消化管に寄生し,下痢症を引き起こす。クリプトスポリジウム属のうち,人に感染するものはC. hominis, C. parvum, C. meleagridis などが報告されているが,人のみに感染するものから,牛,豚などの動物と人獣共通に感染するものまで宿主特異性には幅がある。従って,人に関連する排水はもちろんのこと,畜産系排水も水源の汚染源となりうる。感染動物の腸管から環境に排出される時には,長径およそ4?6μm程度の感染型であるオーシストという形態をとる。このオーシストは強固なオーシスト壁を持ち,環境下での様々なストレスや塩素消毒に抵抗を示し,急性期の患者の便中には107個/gを超えるほど多数存在する。

塩素耐性と急速ろ過法による除去性

 越生町や欧米での集団感染では,通常の塩素消毒が施された水道水が感染源となっている。このことが示すように,通常レベルの塩素消毒はクリプトスポリジウムの対策としては十分といえない。  高濃度(80mg/L)の塩素にオーシストを曝露させ,その不活化をマウス感染試験で評価した例では2logの不活化CT値で7200mg・min/Lと飲用に供する水道水としては非実用的な値が報告されている(Korich et al., 1990)。一方,実用レベルの低濃度(1.0mg/L)での長時間曝露の実験では同じく2logの不活化CT値で1600mg・min/Lとの報告もある(志村ら2001)。この値は浄水池-配水池での滞留時間を考慮すれば,現行のシステムでも1log程度の不活化が可能であることを示しているが,集団感染を防御するのに十分といえるレベルにはない。  一般的な浄水処理法である急速ろ過法による除去率は,十分に管理された大規模な浄水場での調査でも3log程度である(Hashimoto et al., 2000)。原水にオーシストが多量に含まれる急性期の患者の糞便が混入した場合には対応できない可能性がある。

水道におけるクリプトスポリジウム対策

 1995年の越生町での集団感染の発生を受けて,厚生省(当時)は「水道におけるクリプトスポリジウム対策指針」(暫定指針)を通知し,各水道事業体では対策を実施した。暫定指針では,「水源の汚染のおそれ」をクリプトスポリジウムや残留性の高い糞便汚染指標である嫌気性芽胞菌の検査によって判断し,汚染のおそれのある場合には,急速/緩速ろ過法,膜ろ過法などの物理的な浄水工程の導入を求め,浄水の濁度管理を水道水質基準の2度から0.1度引き下げることとした。浄水中には極めて低濃度で存在するであろうクリプトスポリジウムの汚染を検出することは実用的でないことから,このような「水源や原水の管理」と「浄水処理工程の管理」によって安全性を確保しようとしたものであった。  2007年3月,暫定指針は「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」として改正され,さらなる対策の充実がはかられた。ここでは,濁度管理は暫定指針を踏襲し,水源のクリプトスポリジウム等による汚染の”おそれ“を指標菌(嫌気性芽胞菌,大腸菌)の検出状況と水源の状況(地表水,被圧地下水など)により,汚染の可能性の低い「レベル1」から可能性の高い「レベル4」までに区分し,そのレベルによって,クリプトスポリジウムや指標菌の検査の頻度,ろ過等の物理的処理の実施などを求めている。この対策指針では原水が地表水でない場合には,ろ過工程の導入に代替して,クリプトスポリジウムの不活化に有効である紫外線処理を実施することも可としたことが大きなポイントである。本対策指針によって,上水道ではじめて塩素消毒を補完する消毒法として紫外線処理が使用できるようになった。  原水の水質が良好で,ろ過などの物理的処理を有さず,塩素消毒のみで給水している水道事業体の多くは中小の上水道あるいは簡易水道であることが多い。これらの事業体ではクリプトスポリジウム対策の必要性が生じても,多額の予算を必要とする急速ろ過や膜ろ過などの物理的処理を新たに導入し,維持管理していくことは容易ではない。クリプトスポリジウム対策として,紫外線処理という新たな選択肢が増えたことは,コストの面からも特筆すべきことである。


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