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【有機フッ素化合物PFOS・PFOA】

古武家 善成

兵庫県立健康環境科学研究センター

?物性・環境汚染・毒性?

 有機フッ素化合物のPFOS(Perfluorooctanesulfonic acid:ペル(パー)フルオロオクタンスルホン酸),PFOA(Perfluorooctanoic acid:ペル(パー)フルオロオクタン酸)およびその塩は,いずれもフッ素系界面活性剤に属し,PFOSはスルホン酸タイプ,PFOAはカルボン酸タイプの活性剤である。界面活性剤とは,同一分子内に親水基と疎水基(親油基)とを併せ持ち,極性の異なる液相や気?液相の境界(水と油のような極性の異なる液相と液相の境界や気相と液相の境界)に吸着して,表面張力の低下など界面の物理化学的性質を変化させる両親媒性の有機化合物の1群である。界面活性剤は,この物性により,洗浄をはじめ乳化,分散,可溶化,湿潤など多くの有用な作用を示す。界面活性剤には親水基と疎水基の組み合わせで多数の種類が存在し,水中での親水基の解離状態により,陰イオン系,陽イオン系,両性イオン系,非イオン系の4種類に大別される。

PFOS・PFOAはどちらも陰イオン系であり,疎水基である直鎖アルキル鎖の水素原子が全てフッ素原子に置き換わった構造をしている。界面活性剤であるので水にも油にも溶ける(水溶解度:PFOS 570mg/L,PFOA 3,400mg/L)。フッ素原子は水素原子よりファンデルワールス半径が大きいので,疎水アルキル基骨格の炭素原子を覆うことになり,分子の化学的安定性を増加させる。また,炭化フッ素系疎水基(Rf基)は炭化水素系疎水基(R基)よりも自由エネルギーが一般に小さいので,例えば,界面活性剤として水表面を覆えば表面の自由エネルギーをより低下させ,表面張力を著しく減少させる。したがって,洗浄作用の限界の目安となる臨界ミセル濃度が,同じ炭素数の炭化水素系界面活性剤より非常に低くなり,低濃度でも有効な界面活性作用を示すことができる。

この特性により,PFOS,PFOAは強い撥水性,撥油性,化学的安定性,熱安定性,耐薬品性,非粘着性などの性質を有することから,繊維・紙・皮革製品の撥水(防水)・撥油加工用,防汚加工用,調理器具焦付き防止コーティング剤,水性膜形成泡消火剤,鋳型離型剤,半導体コーティング剤,航空機油圧作動液などとして,家庭および産業系で幅広く用いられている。また,特にPFOAは,有機フッ素高分子(フルオロポリマー)であるポリテトラフルオロエチレン(商品名テフロン)製造時の乳化剤としても用いられる。

PFOS・PFOAの炭化フッ素骨格合成には2種類の方法がある。1つは炭素数8のアルキル基であるオクチル基の電解フッ素化法(実際には,n-オクタンスルホン酸またはn-オクタン酸のフッ素化)であり,もう1つは単量体テトラフルオロエチレン(C2F4)の短鎖重合(通常のポリマー化に対して重合度を非常に低くした重合反応)法である。この短鎖重合反応はテロメリゼーションと言われ,生成された低分子重合体はテロマーと呼ばれる。これらの合成法,特に電解フッ素化法では,分岐鎖を有したり炭素数が異なる種々の類縁不純物が生じ,また,PFOS・PFOA以外の炭素数の有機フッ素化合物も製造されている。これを反映して,環境中でも多くの誘導体や類縁化合物が検出されるようになってきたことから,PFOS・PFOAを含めペルフルオロアルキル基を有する類縁化合物群はPFCsと総称されるようになった。

PFOS・PFOAは,米国のデュポン社や3M社により1950年代から製造されていた。しかし,その環境汚染問題は,商品名「スコッチガード」の防水スプレーで知られた3M社が,1999年に自社の工場労働者の血清中にPFOSが高濃度(範囲:ND?13 mg/L,N=327)に含まれていることを論文発表し,2000年には「PFOSの2002年製造中止」を決定したことで注目されるようになった。その後,環境調査やヒト血液調査がカナダ,イギリス,スウェーデン,ドイツ,オーストラリアなど各国で実施され,極地域の動物を含む環境やヒト(PFOS:数10μg/L,PFOA:数μg/L)を広範囲に汚染していることが明らかになった。PFOS・PFOAは難分解性で,このように残留性や生物蓄積性が明らかになり,毒性データも集積されつつあることから,ストックホルム条約のPOPs(残留性有機汚染物質)リスト物質とすることが検討されている。

わが国でも,2002年には少人数ではあるが国内居住者全員から低濃度(2?20μg/L,N=26)のPFOSが検出された(PFOAは定量下限未満)。また,2003年には全国の河川,海域の100以上の地点での調査から,PFOS:0.2?530ng/L,PFOA:0.2?67,000ng/Lが検出され,高濃度地点の存在や広範な汚染が明らかになった。これら高濃度地点が関西地域に集中していたことから,その後,ヒト血液や水道水中の濃度が調査され,京都,大阪,兵庫の各都市で,特にPFOAが高い(10μg/L程度)ことが認められた。これらの結果や新たな河川調査結果が今年(2007年)5月に新聞報道されたことから,兵庫県や大阪府が地域内の河川,海域,地下水,下水処理水に関する大規模調査を実施した。その結果,大阪府および兵庫県東部を流れる神崎川・安威川水系でPFOAがスポット的に高い(最高670ng/L)ことが確認された。このようなスポット汚染は関東地域でもみつかっている。

PFOS・PFOAの汚染源に関しては,日本や各国での環境調査にみられるように,製造・使用する工場や下水処理場からの排出が重要と考えられるが,それ以外に,環境微生物代謝によるフッ素テロマーアルコールなど関連物質からの生成の関与も推定されている。

 毒性に関してはPFOAについて多くの報告がある。急性毒性はあまり強くない(LD50:500mg/kg程度)が,肝臓ガン,膵臓ガンなどの発ガン性や肝臓障害,脂質代謝異常,発達障害などがラットで明らかになっており,肝毒性に関し,ペルオキシゾーム増殖因子受容体に結合して脂肪酸代謝に関与する機構が考えられている。また,免疫毒性も報告されている。ヒトへの有害性については,デュポン社や3M社は,自社工場の多数の労働者に関する長期疫学調査から有意な影響はみられないとしている。しかし,最近では,臍帯血中のPFOS・PFOA濃度と乳児の体重,頭周長との間に有意な負の相関があることが報告されるなど,知見が集積されつつあり,米国EPAリスクアセスメント委員会報告書にも「ヒト発ガン性が示唆される」と記述された。米国EPAは,デュポンの工場周辺の飲料水に関するPFOA対策濃度レベルを500ng/Lと決め,これを超えた場合の対応をデュポン社に命じている。PFOSに関しても,一部の地域では生態リスクが生じる可能性が示唆されるとされている。

 PFOS・PFOAの問題では,米有害物質規制法健康リスク報告義務違反によるデュポン社,3M社への多大な罰金命令,相次ぐ住民訴訟などを経て,デュポン,3M,旭硝子,ダイキンなど,米国におけるPFOA・関連物質主要生産8企業に対する2015年全面規制プログラムが始まった。EUをはじめ各国でも規制が検討されている。日本では,現在のところ,両物質に対する化学物質審査規制法(化審法)第二種監視化学物質指定のみの対応である。


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